北九州市立自然史・歴史博物館 いのちのたび博物館 KITAKYUSHU MUSEUM OF NATURAL HISTORY & HUMAN HISTORY

武石 全慈

プロフィール


鳥類担当学芸員
武石 全慈
たけいし まさよし
[理学博士]

1953年神奈川県生まれ。
1976年東北大学理学部生物学科卒業。
1985年九州大学大学院理学研究科 (生物学専攻) 退学。
1986年から北九州市立自然史博物館に勤務。

 

主な研究業績

研究紹介

【北部九州(越冬地)および中国遼寧省(繁殖地)におけるズグロカモメ調査】


 ズグロカモメ(Larus saundersi)は、IUCN(国際自然保護連合)のレッド・リストでは “Vulnerable” にランク付けられている。ズグロカモメ日中共同調査が1996年から実施されてきており私も参加してきた。この調査を担ってきた組織は、北九州市、北九州ズグロカモメ研究会、山階鳥類研究所、WWFジャパン、中国遼寧双台河口国家級自然保護区管理処、遼寧省林業庁野生動植物保護処、中国国家林業局鳥類環志中心である。調査は、繁殖期には中国の遼寧双台河口国家級自然保護区(遼寧省盤錦市)で、越冬期には九州を中心とした西日本各地で行なわれた。遼寧双台河口国家級自然保護区では、1996年から毎年6月に、繁殖コロニーで、成鳥数のカウントと雛・成鳥へのカラーフラッグの標識装着(写真)が行なわれた。同保護区での成鳥数は、2150羽(’96)、1600羽(’97)、2369羽(’98)、2323羽(’99)、2485羽(’00)、3211羽(’01)であり、本種の保護にとって同保護区は極めて重要な繁殖地であることを示している。しかし、2001年には、同保護区の成鳥数の約70%は、堤防にとり囲まれた場所で繁殖していた。それらの場所は、近い将来、エビ養殖場や製紙工業用のアシ原となる予定である。同保護区では、本種の繁殖場所である塩性湿地は減少し続けている。2000羽以上の繁殖個体群が維持されているにもかかわらず、同保護区での本種の危機は依然として続いている。
 同保護区での雛・成鳥へのカラーフラッグの装着数は、110羽(’96)、131羽(’97)、82羽(’98)、184羽(’99)、201羽(’00)、138羽(’01)であった。これらの個体の一部は、日本の18ケ所の越冬地で発見され、同保護区から日本への渡りが確証された。 なお、2001年には、中国・北朝鮮国境の鴨緑江河口に広がる鴨緑江口湿地国家級自然保護区(遼寧省丹東市)も調査し、 209羽のズグロカモメをカウントし、雛を観察し繁殖を確認した。
 越冬期の西日本での調査では、越冬数のカウントと標識個体の探索を行なった。越冬数のカウントは、WWFジャパンによって、既に1994年から始められていた。記録された各年の総個体数は、1037羽(’94)、1082羽(’95)、1235羽(’96)、1222羽(’97)、1408羽(’98)、1497羽(’99)、1611羽(’00)、2053羽(’01)であった。日本での越冬数は徐々に増加している。しかし、最大の越冬地であった諌早湾干潟が消滅したこともあり、今後、同干潟の再生や日本各地の干潟の保全が必要とされる。
http://www.city.kitakyushu.jp/~k2602010/sosiki/kanri_ka/shizen/zug/index_2.html(調査結果の一部についてはここを参照のこと)

【北九州市山田緑地に出現する過剰肢を持つヤマアカガエルに関する調査】


 1995年から毎年、北九州市の自然公園「山田緑地」(山田弾薬庫跡地の一部)で、過剰肢(癒合も含む)を持つヤマアカガエル(写真)が出現している。一つの卵塊から育った幼体数の中に占める過剰肢個体数の割合は、最大で31%にもなり、5年間の平均は1.4%であった。広島大学での交配実験の結果、過剰肢個体は遺伝的に生じることが示唆された。山田弾薬庫跡地は、戦前・戦中には旧日本陸軍により弾薬庫及び填薬所として使用され、TNT爆薬(茶褐薬)の砲弾・手榴弾等への填薬作業に伴い、飛散したTNTで汚染されたと見られる。戦後は1972年まで在日米軍により弾薬庫等として使用され、DDT類、PCB等による環境汚染があったと見られる。これらの汚染状況と過剰肢ガエルの出現との間の関係の有無については全く不明であり、今後の課題である。また、山田弾薬庫敷地内での旧日本陸軍及び在日米軍の活動内容はほとんど不明で(後者の一例としてhttp://www.nautilus.org/library/security/foia/Japan/FEC56.PDF)、極めてローカルな地域(山田)における歴史(軍事的側面から見た昭和史)の解明も必要とされ、環境史学の観点からも興味深い事例と思われる。なお、この現象に対して発生生物学の観点からの考察が、岡田節人著「ヒトと生きものたちの科学のいま」(2001年岩波書店発行)で展開されている。当館のポケットミュージアムのコーナーでは、調査結果の概略と過剰肢ガエル標本を展示している。

【シーボルト収集自然史標本調査】

 熊本大学の山口隆男先生のシーボルト収集自然史標本調査のメンバーに加えていただき、オランダのライデン自然史博物館に保存されている160年前の日本の鳥類・哺乳類標本の調査を行ない、247種、1169点を確認した。現在、報告書の作成作業中。